2013
眺望絶佳
瀬戸内国際芸術祭2013
小豆島町、香川
3月20日ー 4月21日、7月20日ー 9月1日、10月5日ー 11月4日
2013
眺望絶佳
瀬戸内国際芸術祭2013
小豆島町、香川
3月20日ー 4月21日、7月20日ー 9月1日、10月5日ー 11月4日
アーティスト・ステートメント
眺望絶佳
2012年7月、フィラデルフィア美術館での企画展にて、ポール・ゴーギャンの名作『われわれはどこから来たのか われわれは何者か われわれはどこへ行くのか(英題 Where Do We Come From? What Are We? Where Are We Going?)』をみた。 神話、アルカディア(Arcadia)、桃源郷を探し求めようと漂流する麻袋のような粗目のキャンバス地には、タヒチに滞在していたゴーギャンの現実がみえた。それは島の人と呼吸をともにし、生と死に向き合う時間。筆跡から彼の生きようとする鼓動のリズムを感じた。美術史や絵画技法などの議論を超越した揺らぐことのない一人の人間の芸術への求道心によって生み出された軌跡が画面の上にあった。この強烈な鑑賞体験の後、わたしの小豆島での滞在制作が決まった。
この作品「眺望絶佳」は、吉仲一徳氏 編集『池田町の伝説と民話』とわたし自身の滞在記の二冊の書物を題材にした、アクリル絵具による絵画と陶芸技法による彫刻を構成したインスタレーションである。
およそ幅13メートル 高さ1.6メートルの大きな絵画は、小豆島三都半島の日差しと波の音を感じながら素直に描くと、自然と山水画のようになった。画面上に、伝説と民話からの引用文はブルーの文字で、滞在記からはシルバーの文字で描いた。
45点にもおよぶ彫刻群は、物語の引用箇所に登場する動物・妖怪・情景である。寒霞渓の麓にある室井保先生の窯で焼き、かたちになるにつれてお地蔵さんのように愛らしい姿となった。制作には小豆島町のたくさんの方々にお手伝いいただいた。伝説に登場する長者の末裔や、「相撲の相手をしてほしい」とねだる妖怪の制作には元相撲部が参加するなど、偶然にもその物語に関係性のある人々が制作にたずさわっていた。粘土は主に信楽と瀬戸の土を使い、釉薬は色彩鮮やかな現代釉薬を使用した。
会場となった吉野地区のコンクリート倉庫は、かつて瓦工場で粘土を貯蔵するためのものであった。壁面には今でも飛び散った粘土が残っている。彫刻制作を使い古しの粘土を再生するところからはじめたのも何かの縁であろう。今は亡き陶工、山元真一氏の瓦製造のご苦労を体験をとおして肌で実感することができた。そして旧池田町の伝記をまとめた吉仲氏も吉野地区の生まれであった。わたしの7ヶ月の滞在は、この美しい地に生きた人々の足跡と作品制作をとおして対峙しすることであった。同時に、島の人々の苦難を分かち合い明るく輝いて生きる姿を作品にすることでもあった。
外へ出て、海へ向かえば、目の前には吉野崎海岸がある。さらに防波堤の先端に立つと、ため息のでるほどの青く透き通った海面と空に囲まれ、自分自身がその風景に溶け込んでいくような錯覚を感じる。このような美しい風景のなかで島の人と出会い生活を共にすることで、わたしは人間の素晴らしさを知り、水面が輝き眩しいこの絶景はわたしたちそのものであろうと気づかせられた。
この作品「眺望絶佳」にて、心に残されていく昔話、そして脳裏に焼きつく島での経験から飛躍し、新しい希望の物語がうまれてくることを願っている。
古川弓子
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