アーティスト・ステートメント
鉛筆による素描連作「変容する海」は、島の暮らしで網膜に残った残像、思い描いた心象を表現したものである。紙に浮き上がってくる情景と詩は、私と世界本来の力とつながった自動筆記からできたもののようである。
波の満ち引きに、身体が揺さぶられ、私は人間らしくなる
洞窟は内部がむきだしになり、外へと吹き出し
マントルが動き出し、プレートが表裏逆転する
マリアナ海溝は、エベレスト山をいとも簡単に飲み込み
島に住んだ私の肌はどんどんと黒くなり、心のコントラストが明白になる
震源のかたまりは人間の五感で知ることができるのだろうか
福島第一原子力発電所事故後、私は海洋汚染を心配して、福島の海を表現した。あれから10年もの月日が経ち、海は計測不可能な波の数によって目に捉えられないものへと変容し、今暮らすグアム島の海へも、混じり消えているのであろう。海が私たちを守っているのは確かだ。その大きな抱擁に感謝して、私はこのまま描き続ける。
古川弓子
東京藝術大学大学院博士後期課程美術研究科美術専攻修了(2006年)、主な展覧会に、個展『灰かぶり』OZASAHAYASHI Kyoto(2015年)、『白昼夢』Gallery Side 2 (2006年)、『星の王子様』Tinbox Contemporary Art Gallery フランス(2007年)、『クオテーション』イセ文化基金 ニューヨーク(2009年)、『スピュトン・ダイビル』hpgrp Gallery ニューヨーク(2013年)、『COLLECTION COOKING』福島県立美術館 (2014年)。また『大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ 2003』、『瀬戸内国際芸術祭 2013』ほか国内海外ともに多数のグループ展や芸術祭に参加。
2005年にアジアン・カルチュラル・カウンシル、また2007年から2009年は文化庁、新進芸術家海外留学制度の奨学生として渡米し、Location One とInternational Studio Curatorial Program(ISCP)に滞在する。
現在は東京とグアム準州に滞在し制作しながら、文学と視覚芸術を往き来する、ドローイング、絵画、彫刻インスタレーションとパフォーマンスによる制作活動に専念している。